リュック型の防災セットを1つ買って、備えが終わった気になる。これがいちばん多い失敗です。セットの中身は「持ち出して逃げる」ための道具が中心で、実際に多いのは「自宅で数日間しのぐ」在宅避難だからです。
先に結論
- 最初の1万円飲料水と携帯トイレに使います。この2つは代わりが利かず、店頭から真っ先に消えます。
- 次の1万円モバイルバッテリー・カセットコンロ・乾電池。停電と断ガスをしのぐ道具です。
- 防災セット派買ってもかまいません。ただし水と携帯トイレの量だけは、中身を数えて不足分を買い足します。
優先順位は「代わりが利かない順」で決まる
防災グッズの優先順位は、値段でも不安の大きさでもなく、代替手段があるかどうかで決まります。食料は冷蔵庫と棚の中身でしばらく代用できます。明かりはスマホでも代用できます。水とトイレだけは、家の中に代わりがありません。断水した瞬間から、蛇口の代わりはペットボトルだけ、水洗トイレの代わりは袋と凝固剤だけです。
推奨量は公的機関がすでに示しています。首相官邸の防災ページは、飲料水を「1人1日3Lを目安に3日分」、大規模災害では1週間分の備蓄が望ましいとしています。農林水産省の家庭備蓄ガイドも、食品は「最低3日分〜1週間分×人数分」としています。トイレは東京都が「1日5回×3日分×人数」を最低限の目安とし、1週間分を勧めています。
ライフラインの復旧は、一般に電気が早く、水道とガスが遅れます。つまり停電より断水のほうが長引く前提で量を決めます。水3日分・トイレ3日分を最低ラインに、置き場所が許す範囲で1週間分へ増やす。これがこの記事の基準です。
もう一つの前提が、在宅避難と持ち出しの区別です。持ち出しリュックに入るのはせいぜい1〜2日分で、3日分の水6L(6kg)を背負って逃げることは現実的ではありません。備蓄の主戦場は自宅の棚です。リュックは「最初の1日を外でしのぐ分」と割り切ると、買う物の迷いが減ります。
まず揃える10点|優先度順の一覧
10点を優先度順に並べます。◎は最初の買い物で揃えるもの、○は次の買い物で足すもの、△は日常品の転用でしのげるものです。
| 優先度 | 品目 | 量の目安(1人) | 根拠・考え方 |
|---|---|---|---|
| ◎ | 飲料水 | 1日3L×3〜7日 | 首相官邸・農水省の目安 |
| ◎ | 携帯トイレ | 1日5回×3〜7日 | 東京都の目安 |
| ◎ | モバイルバッテリー | 満充電2回分〜 | 連絡・情報収集の生命線 |
| ○ | 懐中電灯・ヘッドライト | 1人1灯 | スマホ電池の温存 |
| ○ | 乾電池 | 機器の交換1回分×2 | 灯り・ラジオの動力 |
| ○ | カセットコンロ+ボンベ | 1台+ボンベ複数本 | 断ガス時の加熱手段 |
| ○ | 非常食 | 3〜7日分 | ローリングストックで |
| ○ | 携帯ラジオ | 1世帯1台 | 通信障害時の情報源 |
| △ | 救急用品・常備薬 | 1週間分 | 持病薬は最優先で確保 |
| △ | 衛生用品 | 1週間分 | 断水時の清潔維持 |
1〜2位:飲料水と携帯トイレ
水は1人1日3L。飲用と調理用を合わせた量で、生活用水は別です。4人家族の1週間分なら84Lで、2Lペットボトル42本になります。重くてかさばるため、通販でケース買いするのに向いた筆頭です。長期保存水でなくても、普段飲む水を多めに買って古い順に飲めば足ります。5年保存水は入れ替えの手間が少ない代わりに単価が上がるので、置き場所と相談で選びます。
携帯トイレは、便器にかぶせて使う袋と凝固剤のセットが基本形です。東京都の目安どおりなら、4人家族の3日分で60回分、1週間なら140回分になります。水よりも見落とされやすく、発災直後から必要になる点で優先度は水と並びます。断水時に水洗トイレへ無理に水を流すと、配管破損時は階下への漏水につながります。集合住宅ほど携帯トイレの優先度が上がります。50回分・100回分の大容量セットで単価を下げるのが現実的です。
3〜5位:電源と明かり
モバイルバッテリーは、スマホを2回以上満充電できる容量が目安です。表示容量のうち実際に使えるのは6〜7割なので、表示の数字を鵜呑みにできません。容量の逆算方法は別記事で計算しています。
あわせて読む"防災用モバイルバッテリーの容量の目安"懐中電灯は両手が空くヘッドライトが実用的です。停電の夜に片付けや調理をするとき、手持ちの懐中電灯は片手を塞ぎます。1人1灯に加え、部屋全体を照らすランタンが1つあると生活の質が変わります。乾電池は総本数ではなく、手持ちの機器の交換1回分をサイズ別に数えてから量を決めます。使用推奨期限と液漏れの注意は別記事にまとめています。
あわせて読む"乾電池のまとめ買いと使用推奨期限"6〜8位:加熱・食料・情報
カセットコンロは、停電・断ガス時に湯を沸かせるほぼ唯一の現実的な手段です。湯が沸けば、レトルトも即席麺もフリーズドライも食料になります。逆にコンロがないと、非常食の選択肢が「そのまま食べられる物」に狭まり、費用がかさみます。ボンベは使用期限(一般に製造から約7年が目安とされます)があるので、鍋物などで普段から消費して回します。
非常食は専用品を買い込むより、普段食べる缶詰やレトルトを多めに買って古い順に食べるほうが続きます。農水省が勧めるローリングストックです。回し方は別記事にまとめています。
あわせて読む"非常食のローリングストックの回し方"
携帯ラジオは、停電と通信障害が重なった局面の情報源です。スマホで代用できる場面は多いものの、電池の消費を情報収集に回さずに済む価値があります。乾電池式なら備蓄電池と共用できます。手回し充電・ライト付きの多機能型もありますが、多機能ゆえに1つ壊れると全部を失う面もあります。単機能の電池式が基本です。
9〜10位:救急用品と衛生用品
救急用品で最優先は持病の処方薬です。お薬手帳のコピーと合わせて1週間分を確保します。絆創膏や消毒液は市販の救急セットで足ります。衛生用品はウェットティッシュ・マスク・歯みがきシート・生理用品など、断水中の清潔を保つ道具です。マスクとティッシュの適量は別記事で計算しています。
後回しでいいもの
寝袋・発電機・多機能ナイフは、10点が揃うまで後回しでかまいません。寝袋は毛布で、発電機はモバイルバッテリーの増量で、当面は代用できます。全部を一度に揃えるより、まず水と携帯トイレを人数分。ここまでで在宅避難の土台はできます。
ヘルメットや持ち出しリュックは「逃げる備え」です。自宅の耐震性が高く在宅避難が基本になる家庭では、優先度は10点より下がります。ハザードマップで自宅の想定を確認してから判断します。浸水想定区域や土砂災害警戒区域なら話は逆で、持ち出し装備の優先度が上がります。
順序に迷ったら、東京都の「東京備蓄ナビ」が参考になります。家族構成と住まいの形を答えると、品目と数量の目安を一覧で出してくれます。都外の家庭でも量の計算にはそのまま使えます。
買うタイミング|重い物ほど買い回り向き
水・トイレ・ボンベは重くてかさばるため、店頭よりも通販でのケース買いに向いています。単価が2,000〜3,000円前後の品が多く、楽天の買い回りで1店舗ずつに割り当てやすい構成です。水1店舗・携帯トイレ1店舗・電池1店舗と分ければ、それだけで3店舗が埋まります。価格とポイント倍率は変動するので、掲載時点の条件を販売ページで確認してください。
買う順番も分けます。今日買うのは水と携帯トイレ。次のセールで電源まわりと食料。この2回に分ければ、1回の出費は1〜2万円に収まり、買い回りの倍率も2回分使えます。防災用品は値崩れの少ないジャンルなので、セール待ちで先延ばしにする価値は水とトイレにはありません。
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市販の防災セット1つで足りますか
足りません。セットの水と携帯トイレは1〜2日分のことが多く、公的な目安の3〜7日分に届きません。またセットは1人用が基本で、家族の人数分の水・食料・トイレは最初から含まれていません。セットは持ち出し用の初期装備と考えて、在宅避難用の量を別に買い足すのが現実的です。買う前に、内容一覧で水のL数とトイレの回数を数えてください。
賞味期限や使用期限の管理が続きません
期限の長い専用品に頼るほど、管理は年1回の点検頼みになって破綻しやすくなります。食料と水は普段使いの品を多めに買って回すローリングストックにすると、期限管理そのものがほぼ不要になります。点検が必要なのは、回転しない物だけです。長期保存食・電池・ボンベ・モバイルバッテリーの充電を、9月1日など決まった日に年1回見るだけに絞ります。
乳幼児や高齢者がいる場合は何を足しますか
10点に加えて、代わりの利かない個別品を優先します。粉ミルクか液体ミルク・おむつ・アレルギー対応食・介護食・入れ歯洗浄剤などです。液体ミルクは常温で飲め、断水時に価値が大きい備えです。これらも普段使いの品を多めに持つ回転方式で管理できます。
置き場所がありません。何から削るべきですか
削るのは優先度の低い側からです。水と携帯トイレは削らず、まず3日分を確保します。水2Lの6本入り1箱は約30cm四方で、クローゼットの床やベッド下に分散して置けます。1か所にまとめる必要はなく、むしろ分散のほうが家具の下敷きになる全損を避けられます。玄関・寝室・キッチンに1箱ずつが目安です。
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